機械式クロノグラフの代名詞とも言えるオメガのスピードマスター。NASAの公式装備品として、人類初の月面到着を共にした腕時計というエピソードなどもあって、とても魅力的な逸品です。
その人気から、たくさんのモデルが現在ラインナップされていますが、スピードマスターの誕生とその歴史についてご存知でしょうか。
この記事では、人気モデルであるスピードマスターの歴史を紐解き、転換点となった代表的なモデルを振り返りたいと思います。
- ヴィンテージのスピードマスターの型番って何?
- スピードマスタープロフェッショナルって何?
- ムーンウオッチって呼ばれる理由は?
などが気になる方に向けて、これまで大きく8回のモデルチェンジを繰り返したスピードマスターの各世代の特徴やエピソードをご紹介します。
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オメガの名作「スピードマスタープロフェッショナル」とは
スピードマスターは、モータースポーツやアスリート向けのためのクロノグラフ(ストップウォッチ)機能のついた実用的な腕時計として、1957年にシーマスターなどと並ぶ「プロフェッショナルライン」としてリリースされました。
人気モデルであるスピードマスターはいくつかの派生モデルがありますが、基幹モデルは「スピードマスタープロフェッショナル」です。
スピードマスターのうち、「プロフェッショナル」と名のつくモデルには以下の特徴があります。
- 手巻き式
- 黒文字盤
- クロノグラフ
そのため、自動巻きのモデルや、白文字盤のモデル、デイト機能などが搭載されたスピードマスターには、「プロフェッショナル」の名が付くことは原則ありません。
ここからは、基幹モデルであるスピードマスタープロフェッショナルの系譜を振り返っていきます。
初代スピードマスター(Ref.2915)
1957年に発表された「2915」が初代スピードマスターです。
初代は、シーマスター300をベースとして設計されたこともあって、「ブロードアロー」型と呼ばれるシーマスターに似た太めの針の形状をしていることが最大の特徴です。
また、現行モデルとは異なり、ベゼルのタキメーターの色は黒ではありませんでした。目盛および数値がシルバーのステンレス地に直接掘り込まれていることも初代特有のポイントです。
心臓部分であるムーブメントには、他の高級時計ブランドにも提供されていた老舗メーカーであるレマニア社の「キャリバー321」が搭載されていました。
1942年に設計されたキャリバー321は、12時間積算計を搭載しながらも小型を維持していました。小型クロノグラフとしてすでに完成していたこのムーブメントは、構成パーツの配置の美しさもあって、今も伝説となっています。
2代目スピードマスター(Ref.2998)
1959年にリリースされた2代目「2998」は、針が細身のアルファ針になり、ベゼルのタキメーターも現行と同様の黒を背景にしたシルバー文字へと変更になりました。
これらの変更は、空軍からの要請を受けて視認性を高めるために改善されたと言われています。
また、裏蓋にシーホースの刻印がされるようになったのも2代目からです。
海の守護神と言われるシーホースが刻印されているのは、スピードマスターのベースとなったシーマスターの名残とされています。
デザイン的にも完成された2代目は、後のスピードマスターの原型になっています。
そして、1962年10月に宇宙飛行士ウォリー・シラー(Wally Schirra)がマーキュリー・アトラス8号で歴史的な宇宙飛行を行った時に、その腕には2998が巻かれていたという逸話が残っています。
そのため、この2998こそ初めて宇宙に行ったスピードマスターになりました。スピードマスターがムーンウォッチと呼ばれるようになる物語のはじまりです。
3代目スピードマスター(Ref.ST105-003)
1962年頃にオメガのリファレンス番号のフォーマット変更により、2998はST105-002に改められました。その後、1963年に第3世代「ST105-003」が登場します。
2代目からの主な変更点は以下の通りです。
- プッシュボタンの巨大化
- 針が白ペイントのバトン針へ変更
- 夜光塗料がラジウムからより安全なトリチウムに変更
このモデルが、宇宙飛行士用の腕時計を探していたNASAの目に留まりました。
NASAは、宇宙飛行士向けに開発された腕時計ではなく、一般の市販品のスピードマスターを用いて、非常な過酷なテストを実施したのです。
他の候補として、ロレックスやロンジンなど、10社ほどの時計が集められてテストしましたが、その過酷なテストに耐え抜いたのはスピードマスターだけでした。
この事実がスピードマスターのブランド・信頼性をより高めることとなりました。
4代目スピードマスター(Ref.ST105-012)
1964年、4代目の「ST105-012」が登場しました。
4代目からはケースのサイドが膨らみ、リューズを衝撃から保護する形のケースに変更になりました。そのため、ケースサイズが前モデルの40mmに比べて2mm大きくなり、現行モデルのデザインにより近づきました。
また、1965年にはNASAの宇宙飛行士用標準装備としてスピードマスターが正式に採用されたことが発表され、1966年から正式にオメガへの発注が行われました。
NASAの採用を受けて、文字盤には“PROFESSIONAL”表記が“OMEGA Speedmaster”の下に記載されるようになったのも4代目からです。
NASAの正式採用モデルとして、宇宙で船外活動を行なったモデルがこの4代目でした。1969年のアポロ計画の際にも着けていたとされる4代目こそ、真のムーンウォッチといえるでしょう。
5代目スピードマスター(Ref.ST145-022)
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1966年に再度リファレンス番号のフォーマットが変更になりました。そのため、4代目はST105-012からST145-012に改められた後、1968年には5代目となる「ST145-022」が登場しました。
5代目ではこれまで使用されていたキャリバー321に代わり、キャリバー861に変更されました。これにともない、振動数がこれまでの18,000から21,600とハイビートになったことで精度の安定化が図られました。
また、861になったことで、文字盤のデザインの修正に加え、クロノグラフのクラッチの形が意匠性のあるコラムホイール式から量産しやすいカム式へと変更になっています。
一部のファンからは、この変更は廉価版ではないかと非難されました。
しかし、1969年に月に到達したスピードマスターがムーンウォッチと呼ばれるようになり、世界的に知名度・人気が高まった結果、大量生産が必要になったことも、オメガが変更を決断した一因だと考えられています。
なお、月に到達したことを記念としてアメリカでは裏蓋部分に「The First Watch Worn On The Moon」と書かれた限定モデルが発売されたのもこの時期です。
その後、1970年代ごろからは文字盤の色違いや、自動巻、クォーツなど、さまざまなモデルのスピードマスターが派生していきました。
さらに、基幹モデルである5代目もマイナーチェンジを繰り返していきます。
ブレスレットの形状の変化や、文字盤のSpeedmasterの文字『r』が下がっている通称「さがりr」と呼ばれるモデル、1985年には裏蓋をスケルトンにしたモデル「ST345.0808」などの細かな違いがあるモデルがいくつも発表されました。
そのため、一部の希少なモデルは、今では高価で取引されるコレクターズアイテムにもなっています。
6代目スピードマスター(Ref.ST3590-50, Ref.ST3570-50)
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1990年になると、オメガのリファレンス番号のフォーマット変更に伴い、5代目スピードマスターは「3590-50」に改められました。
この頃になると、「さがり”r”」が廃止され、シリアル番号のラグ裏への刻印などがされるようになりました。
そして、1996年には再度「3570-50」にリファレンス番号が変更になりました。
このリファレンス番号変更のタイミングで、ムーブメントの地板やブリッジがロジウムメッキ加工に変更されたキャリバー1861へと変更され、夜光もトリチウムからルミノバに変更になりました。
さらに、2003年にはサファイアクリスタル風防・シースルーバックを搭載した「3573.50」が登場しました。
風防破損の際に危険との理由で、サファイアクリスタル風防の採用を見合わせてきたスピードマスタープロフェッショナルでしたが、技術進化にともない、初めてサファイアクリスタル風防を採用したモデルです。
裏蓋もサファイアクリスタルになっているため、ムーブメントの動きが眺められる時計好きには嬉しい仕様になっています。
7代目スピードマスター(Ref.311.30.42.30.01.005)
2014年にオメガのリファレンス番号のフォーマット変更に伴い、「311.30.42.30.01.005」となりました。
6代目と比較すると、外装やムーブメントに大きな違いはありませんが、ブレスレットのネジ留めにマイナーチェンジが施されました。
また、7代目の大きな特徴として、ボックスが巨大化し、付属品が豪華になったことが挙げられます。
大きなボックスの中に、特別なブックレットや、替えストラップ、ルーペ、ペーパーウェイトなどが付属する豪華仕様になり、スピードマスターファンを喜ばせました。
最新8代目スピードマスター(Ref.310.30.42.50.01.001)
8代目は、これまでのスピードマスターの中でも最も大きな進化と言えます。
オメガは2019年、スピードマスターを代表するムーブメント861をベースに、オメガの最新機能であるコーアクシャル脱進機(ムーブメントの摩耗が少なく、オーバーホールの回数が減少する仕組み)や超耐磁性能などの先進技術を搭載したムーブメント、キャリバー3861の開発に成功しました。
そして、ついに2021年にキャリバー3861を搭載した高性能の8代目のスピードマスターが誕生しました。
外装は7代目を踏まえつつも、50時間を超えるパワーリザーブ、タキメーターベゼルや文字盤設計,ブレスレット・バックルなど細かな改良が多く施された最新モデルになっています。
まとめ
腕時計史の中でも偉大なモデルであるスピードマスターの歴史と進化の歩みを振り返ってみました。
60年以上も前にすでに完成されたデザインに、月に行った機械式時計という魅力のあるストーリーを持つ唯一無二の時計であるスピードマスター。
いくつものモデルチェンジを行っても、その圧倒的な魅力は増すばかりです。伝統を受け継ぎながら進化していくスピードマスターから、これからも目が離せません。