着衣の中で守られていた懐中時計とは一線を画し、外的な環境の元で使用される腕時計は、常に水分や湿度、埃や汗や衝撃に曝されています。これらのダメージを防ぐ取り組みは腕時計の進化の過程で避けては通れない課題でした。
この中の1つ、精密機械にとっては天敵とされる水にいかにして抗うか?この取り組みから生まれた防水機能やダイバーズウォッチ、今回はこちらをテーマにしていこうと思います。
トキゾー
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腕時計の防水の歴史
腕時計の防水ケースの先駆けとなったのはロレックス。1926年ロレックス社が世界に先駆け防水性と防塵性を兼ね備えた腕時計を開発した事で腕時計の防水性の歴史の幕は切って落とされる事になります。
「オイスター」と名付けられた時計は完全密閉のケースでムーブメントを水や埃から保護する事を可能にしました。
同社の説明によると「1926年に発明したオイスターは、ベゼルと裏蓋、リュウズがミドルケースにねじ込まれた特許取得のシステムを備えた世界初の腕時計用の防水ケース」だったそうです。
ねじ切りを施し、各部を絞め、隙間を無くし一体化させることで、極めて高い防水性を実現、このとき防水面で最も泣き所になるリュウズもねじ込み式を採用している事が当事としては画期的なことでした。
翌年1927年にはオイスターの防水性を証明するため、メルセデス・グライツがロレックス・オイスターを身に付けてドーバーの遠泳を実行。
10時間以上海水の中にあったにも関わらず、オイスターは完璧に動作し続けていたそうです。
その後、構造の面でねじ込み固定式が使用できない為、防水が困難と思われていた角形腕時計の防水にオメガが挑戦。1932年には特殊な二重構造のケースを持つ「マリーン」が誕生します。
こちらは第二次大戦中にイギリス軍向けに供給した腕時計に生かされ、1948年「シーマスター」に血流を繋ぐ事になります。
そのほか、イタリアのパネライ社が海軍の特殊潜水工作部隊用に製作したミリタリーダイバーズウォッチ「ラジオミール」、更に進化し、リュウズを守るレバー式リュウズロック機構を持つ「ルミノール」などを次々と開発していきます。
この当事の「ルミノール」には、すでに水深200m程度の防水性能があったと言われています。
更にフランス海軍の要請を受け開発され、1953年にブランパンにより製作された「フィフティファゾムス」は約91.5mの防水性、蛍光塗料を用い視認性を高めたブラックダイヤルを使用していました。
一方、世界初のダイバーズウォッチを開発したロレックスは同年100mの防水性を誇る「サブマリーナー」を発表。潜水中の経過時間を計測できる回転ベゼルや、視認性の高いブラックダイヤルを備え現在のダイバーズウォッチの原点といえるモデルとなっています。
こうして日常防水の枠を脱した腕時計の防水機能は、海中深くでも機能するダイバーズウォッチへと進化していく事になりました。
引用元:ROLEX
現在の腕時計の防水機能
現在の腕時計はその殆どに日常生活防水機能が搭載されています。
しかしここでいう日常生活防水とはJISやISOの規格でいう1種防水時計であり、日常生活での汗や洗顔などの水滴、雨などには耐えられるというレベルです。
少し機能が強化されている2種防水時計で水泳やシュノーケリングまでの使用が可能で、潜水は不可能になっています。
要は防水時計には一般用防水と潜水用防水の二種類が存在し、防水機能は「防水」と「潜水」が明確に区分され用途が規程されているのです。
ISO規格やJIS規格ではその2種類の防水表記方法は決められており、一般用防水なら「Water Resistant 」潜水用防水機能であれば「Diver’s」と表示されるのが一般的となっています。
ダイバーズウォッチの機能
回転ベゼル
ダイバーズウォッチには回転ベゼルがあります。この回転ベゼルは60分スケールを使用して水中での経過時間を測定する為に利用されます。
水中での時間計測に使用できるクロノグラフが開発されていなかった1950年代当事、回転式ベゼルに簡易クロノグラフ機能を持たせたものです。
現在も日常で一時間の計測には簡単に使用できる為使い勝手の良い機能といえます。
この回転ベゼルは開発初期には、時計回りにも半時計回りにも使用出来る両方向回転式を採用していましたが、最初に設定する60分スケールの設定位置が誤操作や海水作業中の衝撃などによるズレで正確な時間測定が出来ないなどのトラブルもありました。
このトラブルは時間の誤認で生命に関わる重大事故を招きかねないという観点から重く受け止められました。
やがてブランパンにより回転ベゼルが不用意に回らないようにロック機構が開発され、その後、半時計回りの一方向回転式にして回転位置がしっかりと保持される逆回転防止型ベゼルなども開発されて安全性が確保されるようになりました。
エスケープバルブ(減圧バルブ)
潜水用防水時計の一部には「エスケープバルブ」と呼ばれる機構がついています。
これは飽和潜水と呼ばれる水深100mを越える深海潜水時に使用されるだけで、通常は使用しません。
誤操作でバブルを動かしたりすると防水性が落ちてしまうので注意が必要です。
飽和潜水時には深海への潜水時の窒素酔いや酸素中毒を避けるため、ヘリウムを加えた特殊なガスを呼吸して海に潜ります。
このヘリウムガスは分子数が小さくガズケットなどから時計の中に入り込み内圧を高めてしまいます。
時計の内部に残ったヘリウムが地上に戻る際の減圧時に膨張してしまいカバーガラスが外れたり、ガラスに亀裂が入るなどの破損が相次いで確認されたので、この問題を解決する為にエスケープバルブが設けられています。
このような時計の水に対する挑戦は現在も続き、様々な水中や海中での作業に生かされ私たちの生活を豊かにしています。