腕時計を調べていく中で、「ETA」という単語を目にする機会も多いのではないでしょうか。
ETAは、性能の優れたムーブメントを開発している企業です。多くの有名メーカーに採用されていることもあり、実績が豊富で知名度も高く、信頼できるムーブメント会社です。
この記事では、ETAのムーブメントについて詳しく知りたいという方に向けて、ETAのムーブメントの特徴や、メリット・デメリットについて解説します。
また後半では、「ETAのムーブメント供給停止問題」という時計業界に大きな影響を与えた出来事について詳しく解説しますので、この機会に奥深いムーブメントの世界に一歩足を踏み入れてみてはいかかでしょうか。
時計のムーブメント「ETA」とは?特徴を解説
ETAは時計の本場スイスが誇る、業界最大手のムーブメントメーカーです。
正式名称は、ETA SA Manufacture Horlogère Suisse(エタ・エス・アー・マニュファクテュール・オルロジェール・スイス)です。
省略してETA(エタ)と呼ばれており、現在はスウォッチグループの子会社になっています。
ETAはブライトリングやオメガなど、数多くの時計メーカーにムーブメントを提供しており、1990年代には、スイス時計の約9割がETAのムーブメントを採用していたと言われるくらい実績のある大手メーカーです。
古くからムーブメントの開発や製造に着手しており、経験やノウハウだけでなく、知名度も高く、時計好きなら知らない人はいないくらい有名なムーブメントメーカーの1つです。
理解しておきたい「汎用ムーブメント」と「自社製ムーブメント」の特徴
まずは、理解しておきたい「汎用ムーブメント」と「自社製ムーブメント」の特徴について解説します。
それぞれの特徴を知って、ムーブメントの知識を深めていきましょう。
汎用ムーブメントの特徴
汎用ムーブメントの大きな特徴は、安価で入手できることと、メンテナンスがしやすいという点です。
今回紹介するETAのムーブメントは、汎用ムーブメントの代表格といっても過言ではありません。
製造コストを下げて生産できるため、ムーブメントの価格を抑えることが実現し、時計自体の値段を下げて販売できるようになります。
ムーブメントのコストを下げることで、外装に力を入れてデザイン性のある時計の開発ができるようになります。
またETAのような汎用ムーブメントは、修理ノウハウも出回っており、メンテナンスもしやすく、定期的なオーバーホールの費用を抑えられる傾向があるのです。
ETAのムーブメントは、海外の高級メーカーも多数採用しており、低価格だからといって品質が悪いということでは決してありません。
長くにわたって費用を抑えながら使えることは、汎用ムーブメントの強みです。
自社製ムーブメントの特徴
自社製ムーブメントの特徴は、文字通り自社で開発や製造の一通りの工程を踏んでいるため、メーカーのこだわりや独自ポイントを詰め込んだオリジナリティのあるムーブメントの製造ができることです。
精度や耐久性、厚みやパーツのデザインまで、メーカーの技術者が厳選したポイントを、メーカーごとに味わえます。
また針やインデックスの位置を独自でデザインすることにより、そのメーカーならではの希少性のある時計を開発できるようになります。
自社製ムーブメントは、機能やデザインに幅をもたらし、オリジナリティ高い時計の開発や製造ができることが強みです。
ETAのムーブメントと自社製ムーブメント、どちらが良いの?
価格やメンテナンス性でいえば、ETAのような汎用ムーブメント、品質やオリジナリティの観点からいえば、自社製ムーブメントです。
どの点を重視するかは個人の価値観に左右されるため、どちらが良いのかは人それぞれ異なります。
そのため、長く使いたい方はメンテナンス性に優れた汎用ムーブメント、ブランド独自のオリジナリティやこだわりポイントを味わいたい方は自社製ムーブメントという感じで、それぞれの特徴を抑えて個人に合った選び方がおすすめです。
時計のムーブメント「ETA」のメリット・デメリット
ETAのムーブメントのメリット・デメリットについて解説します。
内容を理解して、今後の腕時計選びの参考にしてください。
ETAのメリット
ETAの主なメリットは以下の3つです。
- 精度や性能が安定している
- メンテナンス性が高い
- 値段がお手頃
ETA独自の長年培われたノウハウや、最新技術を取り入れた製造を行っているため、精度が良く安定した性能を誇るムーブメントです。
また多くの腕時計に使用されており、ムーブメントの設計を理解している技術者が多く、メンテナンスがしやすいことも特徴になります。
ムーブメントの設計を理解している技術者が多いと言うことは、正規のメーカーで修理を依頼しなくても、民間の腕時計専門業者でも対応してもらえるということです。
ETAのムーブメントは他のパーツとの互換性もあるため、民間の腕時計専門業者に低価格で修理を依頼することもできます。
年数の経過している時計でも、ETAのムーブメントを使っていれば修理できる可能性が高くなり、結果的に時計を長く使用できるようになります。
ETAのデメリット
ETAの主なデメリットは以下の2つです。
- オリジナリティに欠ける
- プレミア感が薄い
ETAのムーブメントはさまざまな腕時計に採用されており、ムーブメントの基本設計は同じです。
そのため厚みや耐久性、稼働時間といった基本スペックが似ており、オリジナル性に乏しい点があります。
自社製ムーブメントが、パーツの薄型化や軽量化などの開発に力を入れている動向に比べると、ETAなどのムーブメントは革新性に乏しいといった一面もあります。
また、気に入ったブランドの時計を購入したのに、ムーブメントに違うメーカーが採用されていたら、人によっては価値が薄いと思い、プレミア感がないと判断する方もいるかもしれません。
近年では、外装のデザインや素材に力を入れるブランドも増えつつありますが、ムーブメントまでこだわりのある方からすれば、物足りなさを感じ価値基準が下がってしまうこともあるでしょう。
デザインに制限が生まれ、オリジナリティに欠けてしまう点が、ETAのムーブメントのデメリットです。
時計のムーブメント「ETA」が使用されているブランドは?
ETAのムーブメントが使用されている主な時計ブランドは以下の通りです。
下記ブランドでも自社ムーブメントを搭載したモデルもありますが、エントリークラスのモデルにはETAが使用されることが多いです。
- ブライトリング
- フランク・ミュラー
- ハミルトン
- ロンジン
- オメガ
- オリス
- タグ・ホイヤー
- ティソ
- スウォッチ
- ジン
他にも多くのメーカーがETAのムーブメントを採用しています。
有名高級ブランドに採用されるだけあって、機能や完成度だけでなく、信頼や実績も積み上げているのがETAのムーブメントです。
時計のムーブメント「ETA」の種類
ETAのムーブメントの主な種類は以下の3つです。
- 「ETA2824」系
- 「ETA2892」系
- 「ETA7750」系
英語と数字の記号が並び、一見複雑そうに見えますが、これらは「ムーブメントの形式」を表現しています。簡単に言うと「ムーブメントの名前」です。
ETAはこれまでさまざまなムーブメントの開発を行ってきており、その中でもこれら3つは代表的なムーブメントに該当するので、この機会に覚えておきましょう。
自動巻きのムーブメント「ETA2824」系
EAT2824系は、ETAの標準クラスとなるムーブメントです。
3針のエントリーモデルに採用されていることが多く、ゼンマイを巻き上げるパワーと精度に優れた特徴があります。
少し厚みはあるものの、安定した機能面や精度を誇る万能なモデルです。
主な採用モデル:チューダー、ハミルトン、ロンジン、ジン
自動巻き3針のムーブメント「ETA2892」系
EAT2892系は、ETAの上位クラスとなるムーブメントです。
ゼンマイを巻き上げるパワーや精度に優れているだけでなく、厚みが薄い特徴があります。
厚みが薄いことにより、さまざまな時計に採用しやすくなるため、一流ブランドからの支持も集めているムーブメントです。
機能面やデザイン面でも、バランスの取れたモデルです。
主な採用モデル:オメガ、カルティエ、シャネル、IWC
自動巻きクロノグラフのムーブメント「ETA7750」系
EAT7750系は、クロノグラフを搭載したムーブメントです。
ストップウォッチ機能をつけるために必要な部品が多くなり、少し厚みのあるモデルになります。
有名時計ブランドのクロノグラフモデルに数多く採用されており、高い精度と安定性に優れたムーブメントです。
主な採用モデル:ブライトリング、IWC、オメガ、タグホイヤー
ETAのムーブメントが供給停止する問題について
ETAのムーブメントは2020年1月1日以降から、スウォッチグループ以外の各メーカーにムーブメントを供給しないという、時計業界にとって非常に大きなニュースがありました。
数多くの時計メーカーがETAのムーブメントに頼っていたため、時計業界に大きな混乱を招くことになったのです。
そこでなぜ供給停止にしなければならなかったのか、その理由や背景、供給停止後の時計業界の動きについて詳しく解説していきます。
ETAが供給停止する理由
ETAがムーブメントを、スウォッチグループ以外に供給を停止した主な理由は2つです。
- このままではスイスの時計産業が発展しなくなる
- 多くのメーカーが外装とブランドだけでお金儲けをしている
ETAのムーブメントに頼りきって、自社開発を怠り、ブランド力のみで発展してきたのが、昨今のスイスの時計業界でした。
その結果、正常な価格競争が困難になり、業界の発展に足止めをかけることに。
このままでは産業の発展が止まるのではないかと恐れを感じたスウォッチグループが、今後の時計業界のために供給停止を宣言しました。
実際にETAのムーブメントを使い、各ブランドによって価格がつり上がっているのは事実です。
デザインや外装に違いはあるものの、同じムーブメントを使用していても、ブランドによって何倍もの価格差が生じている時計もあります。
今後スイスの時計業界が切磋琢磨し、業界が発展するためにも、供給停止は仕方のない判断だったのかもしれません。
ETA供給停止によって時計業界に起こる影響
ETAのムーブメントが供給停止になると各メーカーは以下の2つを行う必要があります。
- 自社製ムーブメントの開発
- ETA以外のムーブメントを使用
大手企業で資金に余裕があるメーカーは、続々と自社製ムーブメントの開発に乗り出しています。
しかしETAのような完成度の高いムーブメントを開発するのは、膨大な時間と莫大な資金が必要なため、簡単なことではありません。
高品質なムーブメントを開発するには、日頃の怠ることのない努力と高い技術レベルが必要になるのです。
一方で資金面が厳しいメーカーは、ETA以外のムーブメントに頼ることになります。
ETA以外で有名な汎用ムーブメントの会社は、「セリタ」という会社です。
セリタは元々、ETAの下請け企業だったこともありETAのムーブメントと互換性もよく、各メーカーは今まで通りの設計でセリタのムーブメントを搭載できます。
現在セリタは、時計業界のシェアが約30%と言われており、多くの有名時計メーカーでの採用実績があります。
開発を続けていくごとに、機能や精度が上がってきているため、今後ますます期待されるムーブメント会社です。
ETAのムーブメントの供給が停止された今、各メーカーは自社製ムーブメントの開発か、ETA以外のムーブメントを採用するかの2択になるのです。
ETA供給停止後の時計業界の動き
ETAのムーブメントが供給停止以降、多くのメーカーが自社製ムーブメントの開発に力を入れるようになりました。
各メーカーがこだわりを持って、クオリティの高いムーブメントを開発することは、時計業界全体のレベルが上がり、私たち消費者にとっても購入の際の選択肢が増えることでしょう。
供給停止がきっかけで、時計業界は転換期に入っています。各メーカーが切磋琢磨しムーブメントの開発に力を入れているのです。
今後どうなるかは誰にも予想がつきませんが、時計業界の発展に期待できる時代に突入していることは間違いありません。
まとめ:ETAのムーブメントは精度の安定したメンテナンス性の高い機械!
ETAのムーブメントは、性能や精度のクオリティが高く、メンテナンス性にも優れたムーブメントです。
ブライトリングやオメガなど、多くの有名ブランドがETAのムーブメントを採用しているため、信頼度も高く実績も豊富な企業になります。
自社製ムーブメントに比べると、デザインの幅に少し物足りなさを感じるかもしれませんが、スタンダードなデザインが好みで長く時計を使いたいと考えている方には、ETAのムーブメントを採用している時計は相性が良いかもしれません。
ムーブメントにまでこだわって時計を見ることで、今までよりも一層時計選びが楽しくなります。ぜひ時計を購入する際は、ムーブメントの種類にも注目してみることをおすすめします。